突然ですが、皆さんは「キーボード」にこだわりはありますか?

そもそもキーボードと言っても、スマホやタブレットの画面に表示されたものを器用に打つことにも慣れてしまった今日このごろ。でも、いくらタブレットで仕事をしよう!と思っても、やっぱり「普通」のキーボードの方が入力しやすいですし、数字の入力が多いからテンキーは必須という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

かくいう記者には、キーボードへのこだわりがかなりあります。もう「趣味」の域です。
仕事用のThinkPad用のドックに、こだわりのフルキーボードを接続して使っていますが、café SANDIの編集会議でこの話をしたところ、「キーボードってそんなに奥が深いの…!?」ということになり、今回ちょっとご紹介してみよう、ということになりました。

これは何だ!? 106だ!109だ!いや、日本語A配列124キーボードだ!!

まずは、記者が会社で愛用しているキーボードがこちら。
一目で分かるとおり、キーの数が多いです。

普通の日本語キーボードは「109キーボード」と呼ばれ、文字キーや機能キー、テンキー、Windowsキーなど、全部で109個のキーがあるのですが、このキーボードは文字キーの左側に2列5段のキー、12個のファンクションキーの上にさらに12個のキー、カーソルキーは十字配列で中央にもキーがあり、全部で124個ものキーがあります。

画像: 記者が現在使用中のキーボード、IBM 3479-JA1

記者が現在使用中のキーボード、IBM 3479-JA1

これは1987年に発表された「IBM PS/55」(パーソナルシステム/55)というPC用のキーボード「IBM 5576-001 Keyboard-1」、略して「5576-001」と呼ばれる製品の互換機「IBM 3479-JA1」です。5576-001も 3479-JA1も、今から約30年前に日本IBMから日本国内向けに発表された、昭和生まれのMADE IN JAPANのキーボードです。

鋭い方はもうお気付きかもしれませんが、このキーボード、こんなにたくさんキーがあるくせにWindowsキーがありません。
このキーボードが生まれたころは、まだWindowsが産声を上げたばかり。PCはMS-DOSの全盛期で、日本ではNECのPC-9800シリーズがPC市場をほぼ独占していたので、このキーボードにはWindowsキーがありません。キーボードからも時代が垣間見えちゃいます。面白いですよね。
※Windowsキーが付くようになるのは、1995年の「Windows 95」発表以降です。

記者・注 上の写真は、5576-001と同時期のIBMのオフコン「AS/400」(Application System/400)の表示端末に使われていた「IBM 3749-JA1」という互換キーボードです。手持ちの5576-001が現在オーバーホール中のため代わりにこちらの写真を載せました。5576-001とはキートップの刻印とスピーカーが内蔵されていないという違いがありますが、それ以外はハードウェア的にほぼ同じものです。

板バネ入りのメカニカルスイッチの感触がたまらない。

現在の一般的なキーボードは低コストで量産できるメンブレンスイッチを使ったキーボードが多いのですが、記者のこだわりは、5576-001にも採用されている、すべてのキーに金属接点のスイッチが仕込んであるメカニカルスイッチのキーボード。キーを奥まで押さなくてもスイッチがONになるので、指に負担がかからず、とても軽やかに入力できます。また、キーを押す途中で突然「カクン!」と指が沈み込むタクタイルという感触と、スイッチがONになったときの「カチッ!」というクリック音も特徴です。
5576-001のキーのスイッチにはアルプス電気製の「板バネスイッチ」が使われていて、キーを押すとスイッチ内の「へ」の字に曲がった金属バネが押され、途中で「V」字にひっくり返ることで生み出される独特なタクタイル感と、「カチッ!」というよりは「チャカッ!」という感じの柔らかなクリック音が大のお気に入りなのです。
※クリック音も「タクタイル」の要素に含める場合もあります。また、タクタイルのない「リニア」と呼ばれるメカニカルスイッチもあります。

この感触を実際にお伝えできないのが悔しい限りです。もし、レトロ感あふれるキーボードを見かけることがあれば、試しにいじってみてください。

画像: 左)アルプス製板バネスイッチ。左側はスイッチの軸を取り外したところ 右)中に入っている板バネ(リーフスプリング)。中央が「へ」の字状に湾曲している

左)アルプス製板バネスイッチ。左側はスイッチの軸を取り外したところ
右)中に入っている板バネ(リーフスプリング)。中央が「へ」の字状に湾曲している

デカい!重い!頑丈!そして指に吸い付くようなシリンドリカル…(ry

5576-001はデッカイんです。サイズは一般的なキーボードよりも一回り大きく、幅52cm×奥行き18cm、高さも最大で5cmぐらいあります。中には124個のマイクロスイッチをガッチリとホールドする鉄板が入っています。正確な重量は計っていませんが、たぶん1.8kgぐらいこのキーボードがつながっているThinkPadよりも重いです(笑)。

そして、吸い付くようなキートップも気持ちイイ。シリンドリカルステップスカルプチャーっていうキーの配置がこの触り心地の良さを実現しています。

シリンドリカルステップスカルプチャーとは、下図のようなキーの形状や配置のことで、"シリンドリカル"は左右に隣合ったキーと、"ステップ"は手前や奥に隣り合ったキーとの押し間違えにくくする効果があります。そして"スカルプチャー"は、指の曲げ伸ばしの加減に合わせてカーブを付けることで、指の無駄な動きを抑える効果があります。記者は、この「全部乗せ」に長いこと慣れきってしまったので、ぺったんこなキーボードでの入力はちょっと苦手だったりします。

画像: キーの「シリンドリカル」形状と「ステップ」および「スカルプチャー」の配置。図中のスカルプチャーはステップ(段差)が付いた「ステップスカルプチャー」。

キーの「シリンドリカル」形状と「ステップ」および「スカルプチャー」の配置。図中のスカルプチャーはステップ(段差)が付いた「ステップスカルプチャー」。

5576-001のステップスカルプチャーは、キーの高さがすべて同じなので、キーの底面(=スイッチの取り付け面)を湾曲させなければ、この配置になりません(図中のステップスカルプチャー①)。5576-001では、この配置にするためにスイッチを固定している鉄板も、スイッチがハンダ付けされているプリント基板もカーブを描くように反っているのですが、最近のキーボードではスイッチの取り付け面をまっすぐにしたまま、キーの高さと角度を変えて、ステップスカルプチャー化しています(図中のステップスカルプチャー②)

画像: 左)ステップスカルプチャーではキートップが曲線状に並ぶ 右)鉄板(上の線)とプリント基板(下の線)ごと湾曲させたキーボード(右端のキーだけ例外的にキーが低い)

左)ステップスカルプチャーではキートップが曲線状に並ぶ
右)鉄板(上の線)とプリント基板(下の線)ごと湾曲させたキーボード(右端のキーだけ例外的にキーが低い)

超・マイナーなあのキーたちが、超・デカくて超・素敵!!

5576-001の文字キーの幅と言いますか、文字キー同士のピッチは19mmぐらいなので、これはまあ普通の大きさなのですが、スペースキーの左右にある[変換]キーと[無変換]キーは幅が約38mmもあります。最近のキーボードにはWindowsキー2個とアプリケーションキーがあり、さらにスペースキーがスペース"バー"に先祖返りするなど、手前1列目の縄張りでの仁義なき抗争の結果、使用頻度の低い[変換]、[無変換]、[ひらがな/カタカナ]、[Alt]キーはどんどん小さくなり、中には[無変換]キーや右[Alt]キー等がないキーボードまであります。

キーのサイズひとつとっても、時代の変遷が見えてきます。奥が深い。

画像: 5576-001の[変換]キーと[無変換]キーの幅は、通常の2倍の38mm。

5576-001の[変換]キーと[無変換]キーの幅は、通常の2倍の38mm。

当時も今も間違いなく世界最高峰。まさしくバブルの遺産と言えるキーボード。

前述のとおり、このキーボードが発表されたのは30年も前で、当時の日本はバブル景気の絶頂期。1万円札を振ってタクシーを拾うとか、会社説明会に行けばタクシーチケットをくれたとか、新入社員のボーナスがいきなり100万円とか、現代の感覚ではにわかには信じがたい日常が「普通」だった時代。発表当時のこのキーボードの定価も、今どきの高級キーボードの価格をはるかにしのぐ「38,000円」。おカネが余っていた時代、キーボードも安い材料を使ってコストを下げる必要がなかったのか、高級・高価・高性能・高品質な部品や素材が惜しみなく使われていました。

本体はABS製のようですがとても肉厚で頑丈。ネジを外しただけでは簡単には分解できず、"ツメ"でガッチリと挟み込まれているのですが、この"ツメ"もこれまた頑丈、少々こじ開けたぐらいでは欠けたりなんかしません。それほど頑丈なのに、組み立てるときには「パチン!」という軽やかな音とともにしっかり固定されます。まるで職人の手による業モノのように、寸分の狂いもないカッチリとした作り。そんなのが量産されていたのですから、バブルってとにかくすごかったんだなあ、って、今さらながら思い知らされます。

…などと、5576-001の魅力をご紹介してきましたが、実はまだまだあります、有名なキーボード。私が使ってきたクラッシックなキーボードたちをご紹介します。

【IBM 5576-002 Keyboard-2】 ―軽快なタッチが魅力の傑作機―

画像1: 【IBM 5576-002 Keyboard-2】 ―軽快なタッチが魅力の傑作機―

5576-001(以下、"001")の別バージョンとでも呼ぶべき「IBM PS/55」用のキーボードが、この5576-002。記者が001の前にメインで使っていたキーボードです。
001と同じアルプス製の板バネスイッチを採用しているので、軽やかなキーの感触やクリック音は001にとてもよく似ています。スイッチを鉄板でガッチリとホールドしているところも001譲り。
一見すると普通の日本語キーボード(106キーボード)のように見えますが、[Alt]キーや[NumLock]キー等がなく、キー配列が普通の日本語キーボードとは異なっていることが分かります。PCにつないでもそのままでは使えないので、後述する「Quckey!」をつなげて日本語106キーボードをエミュレートさせて使っていました。

画像2: 【IBM 5576-002 Keyboard-2】 ―軽快なタッチが魅力の傑作機―

こちらはRICOHロゴの5576-002。IBMからのOEM品なのでIBM版と同仕様ですが、[F5]~[F8]キーにワープロ用の機能名と思われる青い刻印があります。こちらは「Quckey!」をつないで、現在実家のPCで使っています。

【IBM 5576-A01】 ―日本語キーボードの原型にして第1号機―

画像: 【IBM 5576-A01】 ―日本語キーボードの原型にして第1号機―

5576-002の後に登場した、ブラザー工業製の座屈バネ(バックリングスプリング)スイッチを採用した、機械式とメンブレン式の愛の結晶のような方式のキーボードです。

じつはこれ、記者が1992年に「IBM PS/V Entry」というDOS/V PCを購入したときの付属品だったのですが、このA01こそ、それまでメーカーごとにバラバラだったキーボードの配列を統一へと導いた、現在の日本語キーボードの原型にして第1号機という、歴史的なキーボードなのです。さらに前述の座屈バネの構造が秀逸ということもあって、ネットオークションでは今でも1万円以上の高値で取り引きされる人気ぶり。このA01以降は安価なメンブレンキーボードが出回るようになり、複雑さゆえにコストがかかる機械式や、A01のような座屈バネスイッチのキーボードが徐々に減っていったため、記者はその後10年間、PCを変えてもキーボードだけはこのA01をメインに使い続けていました。それぐらい、後発のキーボードよりもずっと使いやすかったのです。

【IBM 5576-C01】 ―小さな赤いポッチに秘めた大いなる操作性―

画像1: 【IBM 5576-C01】 ―小さな赤いポッチに秘めた大いなる操作性―

これは5576-A01と同じ座屈バネスイッチを採用したキーボードなのですが、ブラザー製ではなくIBM製のスイッチを使っており、本体には日本製ではなく「MADE IN U.S.A.」と書いてあります。IBMの座屈バネを使っているのだとしたら、現在の英語キーボードの原型にして至高のキーボードとも言われる、米IBMの「IBM Model-M」シリーズのキータッチを踏襲していると思いきや、中のバネが日本向けにカスタマイズされているそうで、キーを押したときに「スカン!」という感じの、A01よりも低く軽い音がします。個人的には嫌いな音ではないのですが、ちょっと大きいかな~という気がします。
また、中央にIBM自慢のトラックポイントがあり、ThinkPadのようにキーボードから手を離さずにマウスポインターを操作できるのも特徴でした。

画像2: 【IBM 5576-C01】 ―小さな赤いポッチに秘めた大いなる操作性―

さらに、使わないときは写真のように立てておけるという便利なギミックもあったのですが、その後採用されなかったということは、きっとあまりウケなかったのでしょうね。でも、巨大な5576-001で机の上を覆っている記者としては、今さらながらこのギミックが欲しくてたまりません。

【東プレ Realforce 106】 ―チャタりたい人は要注意。絶対チャタらん東プレの白いアイツ―

画像: 【東プレ Realforce 106】 ―チャタりたい人は要注意。絶対チャタらん東プレの白いアイツ―

静電容量無接点式キーボードで有名な東プレによる、初のコンシューマー向けの高級キーボードです。2002年に購入したのですが、当時は「軽くて、静かで、速く打てて、疲れにくくて、チャタリングがなくて、壊れなくて、Windowsキーがない」という触れ込みで、秋葉原で探し回ってもなかなか手に入らなかったほどの超・人気機種。今やRealforce、略して「リアフォ」といえば高級キーボードの代名詞になっています。なんだか特徴を全部言っちゃったような気がしますが、最後の「Windowsキーがない」というところが、当時の物欲を刺激した最大のポイント。そのおかげで[変換]キーと[無変換]キーが5576-A01と同じ大きさになっていたので、とても使いやすくて気に入っています。
 
このキーボード、15年以上前に購入したのに結構キレイに見えませんか?(そうでもない?) 実は数年前に黄ばんだ本体を漂白したんです。キーボードの漂白方法に興味のある人は「レトロブライト」でググってみてください(笑)。
※チャタリング:スイッチの接触不良によるキーの入力ミスのこと。静電容量無接点式は接点がないのでチャタリングとは無縁。

106キーボードのエミュレートができる、Quckey! と Quckey2

さて、上で紹介したキーボードは、すべて PS/2ポートに接続するタイプ。そのうちIBM 5576-A01以降に登場したキーボードは、PS/2→USB変換アダプターで変換すれば、PS/2ポートのない最近のPCでもそのまま使えるのですが、それ以前の5576-001や5576-002はキー配列が少々異なるため、USB変換アダプターをつないだだけでは正しくキー入力できません。Windows 2000まではデバイスドライバーがあったので、レジストリーを書き換えれば使えたのですが、最近のWindowsではドライバーもなくなり、そのままつなげば使える、というワケにはいきません。

で、記者はどうやって使っているのかと言いますと……昔、5576-002で106キーボードのキースキャンコードのエミュレートができる「Quckey!」というハードウェアの制作ページを発見したのでした。秋葉原でパーツを買い集めて、ハンダごて片手に、試行錯誤しながらなんとか完成させて、5576-002をメインのキーボードとして使えるようになりました。

その後、5576-001と5576-003(本記事には未登場)でのエミュレートにも対応した改良版の「Quckey2」が発表されまして、作者の方が基板とファームウェアを書き込んだマイコンチップを頒布していたのでさっそく分けてもらって組み立てた後、ちょっとだけ改造(USBへの変換基板とリセット用のプルアップ抵抗追加)して、ついに 5576-001をメインのキーボードとして使えるようになりました。
※「Quckey!」と「Quckey2」は、本来はキーリピートのアクセラレーターであり、106キーボードのエミュレーションはおまけの機能。

画像: 左)キーリピートアクセラレーター「Quckey!」 中,右)「Quckey2」をUSB仕様にしてリセットボタンを追加した改造バージョン

左)キーリピートアクセラレーター「Quckey!」 中,右)「Quckey2」をUSB仕様にしてリセットボタンを追加した改造バージョン


【謎の同人ハード】

5576-001をQuckey2につないで使っている間、特に不具合は起きなかったのですが、せっかく124キーもあるのに108キーしか割り当てられないことが少し不満で、余っているキーに何か機能を割り当てたくなりました。
※5576-001は[ひらがな]キーの右側にキーがないので、右[Alt]に相当するキーが割り当てられてず、結果「108キーボード」相当になっている。

ある日、5576-001/002/003をUSB接続できるという同人ハードウェアのUSB変換アダプターが、ヤフオク!に出品されていたのを見つけて、さっそく落札。

画像: 106キーボードのエミュレートができる、Quckey! と Quckey2

届いたアダプターは、Quckey!やQuckey2よりもはるかに小さい基板上にわずかばかりの部品が載っただけのものでしたが、これがとてもよくできていて、専用プログラムで5576-001/002/003のキーアサインを自由に変更して、アダプター内に書き込んでしまうというシロモノ。キーアサインはテキストファイルにまとめて記述して一括で変えられる上、初期化(リセット)はボタン一つで完了。この機能のおかげで、普通の109キーボードとほぼ同じキーを配置しながら、余ったキーにWebブラウザーやメーラーの起動、スリープ等の機能を割り当てられるようになり、30年前のキーボードなのに最新のキーボード以上に便利に使えています。


キーの数や押したときの感触や音の違い。テキストではなかなか伝えられなくもどかしく感じます。
もし、古いけどキーの感触が気に入っていたキーボードがどこかに眠っていたら、手入れして使ってみてはいかがでしょう。PC-9801やX68000のキーボード、MacintoshのADBキーボードとか、案外エエのがありまっせ~(笑)

意外に奥が深いキーボードの世界。まだまだ書きたいことがたくさんあるので、またの機会に続編を書きたいと思っています。

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