5月の大型連休を挟んだせいで、すっかりごぶさたという感じがしますが、楽しい休暇を送れましたでしょうか。今回は、その連休の直前に開催された「IBM Watson Summit 2017 Cognitive and Cloud」のイベントレポートを3回にわたってお届けします。

「Watson Summit」って?―という人はいないと思うけど、いちおう概要説明

さる4月27日、28日の2日間、日本IBMによる「IBM Watson Summit 2017 Cognitive and Cloudが東京・品川で開催されました。今年で2回目となるこのイベント、説明するまでもなく、IBMのコグニティブ・コンピューティング・システム「IBM Watson」(以下、"Watson")関連のテクノロジーやソリューションなどを紹介する一大イベントです。

前回は「ようこそ、コグニティブの時代へ」というキャッチコピーを掲げ、人工知能(以下、"AI")やコグニティブ(認知機能)を身近に感じてもらうことにスポットを当てていましたが、今年のキーワードは「Cognitive and Cloud」。いよいよコグニティブをビジネスに実戦投入しようと検討している企業に、今すぐ「準備」を始めてもらうために、コグニティブ&クラウドへの知見をビジネスとテクノロジーの両面から広めてもらえるよう、昨年よりもレベルアップした内容となっていました。

画像: スポンサー企業の一覧。S&Iもスポンサーとして参加しているが、その模様は次回お届け

スポンサー企業の一覧。S&Iもスポンサーとして参加しているが、その模様は次回お届け

AI始めるなら今!「早い者勝ち、やった者勝ち」を割とマジに説く基調講演

イベント会場は、セッション会場と展示会場の二つに分かれていて、セッション会場では、午前中はIBMや有名企業の関係者、および著名人が多数登壇するゼネラルセッション(基調講演)、午後は五つ(2日間合計10)のトラックテーマに沿った計90以上ものセッションが催されました。記者は全部で6個のセッションを聴講したのですが、いずれも内容が濃すぎて1回では書ききれないので、今回は初日のゼネラルセッションの様子をお届けします。

初日(DAY 1)のゼネラルセッションは「WatsonとIBMクラウドで経営変革に挑む」と題し、今年4月に日本IBMの社長に就任したエリー・キーナン氏の講演で幕を開けました。
会場には定員をはるかに超える来場者が詰めかけ、サテライト会場も満員状態。記者は開演時間直前に着いたため「第4」会場でスクリーン越しに聴講することとなりましたが、さらに立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。


だって、最初にWatson作っちゃったんだからしようがないネ

AIって、理論だけなら戦前から研究が始まっていたそうですが、Watsonの世界で呼んでいるAIとは、単に"Artificial Intelligence"ということではなく、自然言語を理解して推論と判断ができるモノを指しています。その中でも「2001年宇宙の旅」の"HAL9000"や「ナイトライダー」の”ナイト2000(K.I.T.T.)"のようなSF作品に登場した、見て、聞いて、考えて、しゃべる、まるで相棒のようなAIは、多くの人々が長い間待ち望んでいたAIであり、それを実用レベルまで作り込んでしまったのは、たぶんWatsonが初めてではないでしょうか。

Watsonが米国の人気クイズ番組「ジョパディ!」に出演して、歴代チャンピオン中最強とされた二人の「クイズ王」に圧勝したのは、6年前の2011年のこと。キーナン氏は、Watsonが『ジョパディ!』出演以降も成長を続けてきたことを挙げ、昨年(2016年)は医療やビジネスを通じて世界で4億人がWatsonを利用しており、今年はそれが10億人以上にまで増えるという予想を語りました。また、現在Watsonのエコシステムパートナーは世界に500社以上あり、日本でも既に40以上の業種でWatsonやIBM Cloudを数百社が導入し、企業のビジネス変革のためのWatsonの活用が広がり始めているとも ― つまり、もうあっちこっちで実戦投入されているとのことです。そして、Watsonは今後、さらに広範なシーンで利用されるようになりますが、その成功の背景には、次の三つの要素が欠かせないと強調しました。

  1. コグニティブコア:
    顧客システムの中核にコグニティブを据え、業務フローやトレーニングや支援に活用
  2. データファースト:
    ネットで検索できるデータ量は全体の20%程度。Watsonで残り80%のデータから企業の競争優位性を生み出す
  3. エンタープライズストロング:
    スケールできる企業構造を創出し、業界に特化したクラウドプラットフォームと連携させる

…と、ここまで成功の How To のヒントを出した上で、2日間で多くのソリューションや事例を紹介しているので、ゆっくり見て行ってね~、という内容でした。


自称"Mr.Watson Jr."はかく語りき。「早くやった者が勝ち」

続いて、「自称 Mr.Watson Jr.」ことソフトバンク(株)代表取締役社長兼CEO・宮内 謙氏が登壇し、同社が「Smart & Fun!」(=AIでもっとスマートに楽しく働こう)というスローガンとともに取り組んでいる、AI活用事例の一部を紹介しました。
例えば同社の顧客窓口には年間8000万件もの問い合わせが来るそうですが、オペレーター対応業務の負担軽減のために、AIの学習専任チームがWatsonに学習を繰り返した結果、応対時間の15%削減に成功したそうです。また、ネットワーク保守では、2万ノードの監視対象サーバーのアラートをWatsonで可視化。アラート、自然言語分類、および検索/ランク付け処理をWatsonに、対応を人間に割り振ることで、1件当たりの処理時間を約「1/10」に短縮(23分→2.5分)した事例を紹介。
Watsonはデータの蓄積と学習の繰り返しでどんどん賢くなりますが、学習には情報と学ぶ時間が必要です。ソフトバンクはWatsonを早くからスパルタ教育で育てたおかげで、回答精度(TOP5に正解がある確率)が急上昇。2017年3月には「94.3%」というスコアをたたき出しているそうです。
宮内氏はAI活用のポリシーについて「早くやった者がデータの蓄積で有利になる」と説明しましたが、要は、学ばせるなら「早い者勝ち、やった者勝ち」ということですね。


百年に一度のビッグウェーブ!電車だけどAIがあればきっと乗り切れる!

続いて、東日本旅客鉄道株式会社(以下、"JR東日本") 取締役副会長・小縣方樹氏が登壇。
JR東日本といえば、説明不要なぐらい有名な鉄道会社ですが、意外にも事業収入の1/3を、駅スペースの活用やショッピング・オフィス事業、電子マネー(Suica)に代表される生活サービス事業などが占めているのだとか。今やSuicaはすっかり電子マネーの代表格になりましたが、それだけでなく、インフラとしてのモビリティー・サービスの提供やインテリジェントな次世代車両の開発など、デジタル化の流れが急速に進んでいます。
例えば、先日山手線にデビューしたばかりのE235系電車には、走行機器の制御や状態監視、車内温度の管理、運行状況、車内コンテンツ(ニュース、天気予報、広告など)の配信、架線や線路の監視検測などの機能を持つ新・車両制御システム「INTEROS」を搭載。今後は山手線全線に、そして他路線へとネットワークを広げて行くそうですが、それと同時に架線や線路の検測結果からの予知などにもWatsonを活用することを目指すそうです。

画像: 左)JR東日本・小縣氏。インテリジェントな電車によるさまざまな計測データとWatsonで、より安全な運行を目指す 右)山手線に導入された新型車両 E235系電車

左)JR東日本・小縣氏。インテリジェントな電車によるさまざまな計測データとWatsonで、より安全な運行を目指す
右)山手線に導入された新型車両 E235系電車

そして、交通業界に来た百年に一度の「波」:「Mobility As A Service」が、電子マネーのようなネットワークと切り離せないテクノロジーはもちろん、自動運転、カーシェアリング、ライドシェアリングのような、新しいモビリティーソリューションをもたらしました。便利な新しいソリューションが出れば、既存のソリューションは廃れてしまいますが、JR東日本は、今後の取り組みについて、鉄道のインテリジェント化はもちろん、鉄道以外の公共交通と連携した輸送システムを構築し、「ドア to ドア」の移動時間短縮:STTT(Shorter Total Trip Time)を目指したいとし、その実現のためにWatsonが欠かせない存在になると語りました。


膨大なデータであふれ返る時代。もうAIでなければ処理が追い付かない

「世界には1日2.5EB(2.5エクサバイト=250京バイト)ものデータがはびこっていて、その90%はこの2年間に増えたもの。こうしたデータの急激な増加が、AI活用が叫ばれる原因になっている」

いきなり「エクサバイト」なんて単位を口にしたのは、米IBM シニア・バイス・プレジデント(SVP)ハイブリッド・クラウド兼IBMリサーチ・ディレクターのアーヴィン・クリシュナ氏。クリシュナ氏は、ビッグデータを解析するためのAIと、その基盤となるクラウドが、ビジネスにおける「頭脳」になると述べました。

画像: 米IBM アーヴィン・クリシュナ氏。IBM Cloudが、セキュリティーと信頼性に優れた「AIのためのクラウド」であることを強調

米IBM アーヴィン・クリシュナ氏。IBM Cloudが、セキュリティーと信頼性に優れた「AIのためのクラウド」であることを強調

ところで、エクサバイトって100京(けい)ですよ、100京。とんでもない数だってことは分かるのですが、普段、ンまい棒やガリガリ様を基準に計算する記者には見当もつかないぐらい膨大なので、ちょっと計算してみました。
100京バイトのデータを、キーボードから1秒間に15バイト、つまり「15連射/秒」して入力する場合、24時間×365日休まず打ち続けて21.1億年。日本の全国民が某・名人級になって並列処理しても16年半もかかります。さらに「2.5EB」ですから、その2.5倍ってことです。既にその膨大さを想像しなきゃよかったと後悔していますけど、とにかく、その90%がわずか2年間で増えるなんて、もう人間の手に負えないよ、とクリシュナ氏はおっしゃるわけです。

「かつて、鉄鋼、電気、石油、自動車、情報、通信などによってGDPが大きく成長したとき、それらをいち早く活用した企業が生き残り、既存の企業を追い落としたように、今後GDPを大きく成長させるのは、データとクラウドを中心とするコグニティブだ。これを早く活用した者が勝利する」

またまた来ました、早い者勝ち宣言。でも確かに、かつての花形産業で隆盛を極めた企業が次世代産業でも生き残っているかどうかは、新事業をいち早く手掛けたかどうかにかかっていることって多いですよね。もちろん、巨額の資本があればより有利になるわけですが、時機を逃せば乗り遅れてしまいますし、方向を見誤れば大損ですので、納得させられてしまいました。

講演では特にヘルスケア関連の具体的な数値を挙げて説明していましたが、単に「ヘルスケアの情報」といっても、患者ごとの医療データ、診断記録、X線やMRI等の画像、ゲノム情報、臨床データ、医薬品、特許、調査結果など、多くの種類があり、さらに何億人分ものデータがあるので、数値を出さなくても、それがどれぐらい途方もない数なのかは、もう数字なしでも想像できるでしょう。
そして、何百万ページものカルテや資料を隅々まで読んで、的確な判断ができる医師なんて、たぶんいません。そこで、ビッグデータを解析するAIと、その基盤となるクラウドにお任せあれ、というわけです。Watsonなら患者個人のカルテ×数億人分を、学習した医療関連のあらゆる記事や文献に照らし合わせ、常に最適な治療法を医師に提案できますよ、と。

そして、AIにはデータが必要で、その膨大なデータを蓄積するためにクラウドが必要です。もちろん、セキュリティーと信頼性に優れたクラウドでなくっちゃ意味がありませんよね。IBMはWatsonを誕生させて事業化するとともに、それに最適なクラウド基盤、「AIのためのクラウド」である IBM Cloudをとっくの昔に用意していて、Watsonと一緒に進化させてきたとアピール。これも「早い者勝ち」で手掛けていたと言っているようで、ちょっとクスっとさせられました。


昔も今も、東京オリンピックが金融改革のトリガーに

トリを務めるのは、(株)三井住友銀行 取締役専務・谷崎 勝教氏。AIとクラウドによる経営戦略の変革について講演し、IT技術の進化が加速し、お客様のニーズがさらに多様化する中、金融業界における重要な経営課題が、お客様のニーズを素早くとらえた成長戦略とコスト削減の二つであり、その解決策としてIBM WatsonとBluemixの活用事例を紹介しました。
同社では、コールセンターの全ブースにWatsonを導入して、オペレーターに最適な選択肢を提案して負担を軽減させたほか、サイバー犯罪の検知にはWatson for Cyber Securityを導入。Watsonに世界中のセキュリティー情報を徹底的に学ばせ、怪しい振る舞いをするデータを検出し、最新情報の中から最適な対処方法を提案するなど、的確な対処ができるようになったそうです。
また、1日に膨大な計算をするデリバティブ取引向けに、Bluemix Infrastructureのクラウド上に信用リスク計測システムを構築。処理量に応じてサーバー数を変えることでTCOを削減を実現した事例も紹介しました。

画像: 三井住友銀行 谷崎氏。50年前のオンラインシステムの写真を見せていたが、あれはやっぱり「最初にやったのはウチ」というアピール?

三井住友銀行 谷崎氏。50年前のオンラインシステムの写真を見せていたが、あれはやっぱり「最初にやったのはウチ」というアピール?

事例紹介はもちろん参考になりましたが、それよりも谷崎氏の「1964年の金融デジタル化に続き、2020年に向けた新たな改革に乗り出し、次世代金融ビジネスのフロントランナーを目指す」という発言の方が印象的でした。1964年って昭和39年の東京オリンピックの年。半世紀以上昔です。
現在、2020年の東京オリンピック開催に向けて、さまざまな準備が進められていますが、前回1964年の東京オリンピックは、実は世界で初めて競技結果の記録管理にコンピューターが導入された大会でした(ちなみにシステム構築は日本IBM)。そのときのコンピューターは、大会終了後に日本初のオンライン勘定系システムに流用され、三井銀行(現在の三井住友銀行)で稼働し始めたもんだから、それを「金融のデジタル化」と呼んでいるわけですが、要するに「ウチが最初に改革したんだから、次もウチがやるぞ」というわけです。みんなして「最初にやっちゃえ」「次もウチが最初」と鼻息荒かったので印象深かったのですが、やっぱりそれぐらいの意気込みがなければ先頭は走れませんよね。


1億人のWatson、1億人がWatson、1億人でWatson

画像: パネル・ディスカッションの様子。左から日本IBM常務執行役員・松永 達也氏(進行役)、JR東日本 小縣氏、三井住友銀行 谷崎氏、米IBM クリシュナ氏

パネル・ディスカッションの様子。左から日本IBM常務執行役員・松永 達也氏(進行役)、JR東日本 小縣氏、三井住友銀行 谷崎氏、米IBM クリシュナ氏

最後は、JR東日本・小縣氏、三井住友銀行・谷崎氏、米IBM・クリシュナ氏によるパネルディスカッション。日本IBM コグニティブ・ソリューション事業担当の松永達也常務執行役員が司会進行役で始まったディスカッションでしたが、その中で、1964年の東京オリンピックの年に新幹線や銀行のオンラインシステムというハードが整備されたのに対し、2020年の東京オリンピックでは「おもてなし」を合言葉にソフト面の拡充を図ろうとしているという話題の中で、その「おもてなし」をWatsonが強力にサポートするだろうという話でした。全世界に公約した「オ・モ・テ・ナ・シ」の実現は、ホスト国である私たち日本人の心意気にかかっていますが、3年後、さらにデキるようになったWatsonがそれを援護してくれるのだとしたら、英語が苦手な記者としては心強い限りです。
最後は「企業のメリットだけでなく、お客様のメリットを追求した結果が、IBMのAIやコグニティブの活用という『顧客志向のアプローチ』であり、顧客とのインタラクションの取り方やユーザーエクスペリエンスの向上を追求し続けることが、テクノロジーを向上させる」と、クリシュナ氏が締めくくり、パネルディスカッションは終了しました。

そういえば松永氏が「日本IBMの売上は米IBMの10%なので、日本は『1億人にWatsonを』」と発言したときに、記者は思わず吹き出してしまいました。キーナン氏が掲げたWatson利用者「10億人」はglobalな目標値なので、米IBMと比較した「1億人」は短期ではとても無理な数字。でも、Watsonにできることがもっともっと増えれば、あらゆるサービスのバックグラウンドにWatsonが使われて「1億人のWatson」も夢ではないかも!!…なんて、ちょっとだけ想像しちゃいました。
もちろんWatsonには、記者の好みに合わせていろいろオススメして欲しい反面、知ってほしくない趣味もたくさんありますので(笑)、あまり賢くなられたり、気を使ってもらったり、ってのは困っちゃうな~。


ゼネラルセッションのレポートだけでこんなに長くなってしまいましたが、
冒頭でも述べたとおり、今回のWatson Summitは、Watsonが実用段階に入って既にあちこちで成果を挙げており、導入を検討している企業にすぐに始めてもらいたい、すぐに準備してもらいたい、ということをお伝えするイベント内容なので、ゼネラルセッションも「早い者勝ち」や「やった者勝ち」を強く印象付ける内容だったように思います。
実はこれではとても書き足りないぐらい、みっちり中身が詰まった講演だったので、もしかしたら省略しすぎたんじゃないかと不安になっていますが、ひとまずゼネラルセッションの紹介はここまで。
次回はS&Iの出展ブースの模様と、聴講したテーマ別セッションの様子をお届けします。

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